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広島地方裁判所呉支部 平成9年(ワ)61号 判決 1998年1月28日

主文

一  被告浜田敏夫は、原告山口政雄に対し五一七万三〇〇七円及び内金四八九万二六九〇円に対する平成八年六月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員、原告山口憲司及び原告小坂裕子に対し各三八五万三〇〇七円及び内金三五七万二六九〇円に対する平成八年六月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  被告能美島農業協同組合は、この判決が確定したときは、原告山口政雄に対し五一七万三〇〇七円及び内金四八九万二六九〇円に対する平成八年六月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員、原告山口憲司及び原告小坂裕子に対し各三八五万三〇〇七円及び内金三五七万二六九〇円に対する平成八年六月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

三  原告らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを五分し、その二を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求める裁判

一  原告ら

1  被告浜田敏夫は、原告山口政雄に対し八三九万一一八七円及び内金八一〇万六五八八円に対する平成八年六月二七日から完済まで年五分の割合による金員、原告山口憲司及び原告小坂裕子に対し各六〇二万三一二〇円及び内金五七三万八五二一円に対する平成八年六月二七日から完済まで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  被告能美島農業協同組合は、原告らの被告らに対するこの判決が確定したときは、原告山口政雄に対し八三九万一一八七円及び内金八一〇万六五八八円に対する平成八年六月二七日から完済まで年五分の割合による金員、原告山口憲司及び原告小坂裕子に対し各六〇二万三一二〇円及び内金五七三万八五二一円に対する平成八年六月二七日から完済まで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  被告ら

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  仮執行免脱宣言

第二事案の概要

一  原告らは、被相続人亡山口ミヨ子(以下「亡ミヨ子」という。)が被告浜田が運転して後退中の普通貨物自動車(広島四一き六六四七号以下「加害車」という。)に衝突されて頭部を強打し死亡した旨主張し、被告浜田に対しては民法七〇九条に基づき、被告能美島農業協同組合(以下「被告農協」という。)に対しては、自動車損害賠償責任共済及び自動車共済契約に基づき、損害賠償等を請求している。

二  争いのない事実等(争いがある事実は、( )内に証拠等を示す。それ以外は、争いがない。)

1  次の事故が発生した。

<1> 日時 平成七年九月二〇日午前一〇時三五分ころ

<2> 場所 広島県佐伯郡能美町鹿川二七三九番地一能美島農業協同組合鹿川支店駐車場

<3> 態様 被告浜田が加害車を運転して後退していたところ、同車の後方を歩行していた亡ミヨ子が転倒して頭部を強打し、同年九月二五日に死亡した。

亡ミヨ子の負った傷害は、両側多発性脳挫傷等であった(甲第一号証、乙第一一号証の一)。

2  被告浜田は、被告農協との間で自動車損害賠償責任共済及び自動車共済契約を締結していた。

自動車共済契約においては、対人賠償損害又は対物賠償損害が生じた場合には、損害賠償請求権者は、被告農協が被共済者(被告浜田)に対して填補責任を負う限度において、被告農協に対し損害賠償請求ができる(乙第一二号証)。

自動車共済契約の支払額は、自動車損害賠償責任共済で支払われる金額を控除した金額であり、その支払は、被共済者(被告浜田)に対する原告らの本件損害賠償請求訴訟の判決の確定が条件となっている(乙第一二号証)。

3  亡ミヨ子は、入院治療費五一万九四八二円を要した。

右治療費は、平成七年一二月二九日、被告農協(自動車損害賠償責任共済)が病院に直接支払っている(乙第九号証)。

亡ミヨ子は、大正一五年二月八日生まれである。

4  原告らは、亡ミヨ子の子供であり、亡ミヨ子の権利義務を法定相続分(各三分の一)に従って相続した(甲第九ないし第一三号証)。

5  原告らは、被告農協(自動車損害賠償責任共済)から、本件損害の填補として、平成八年六月二六日に二一九九万円(死亡部分)、同月二七日に三万一二〇〇円(傷害部分)、平成九年六月四日に五四万円の支払を受けた(なお、右3の入院治療費を含む填補総額の内訳は、傷害部分が五五万〇六八二円、死亡部分が二二五三万円である。)。

三  争点

1  被告浜田は、後方を不注視の状態で加害車を後退させたため、亡ミヨ子の存在に気づかず、加害車を亡ミヨ子に衡突させたか(以下「本件事故」という。)。

2  本件事故により右3、5の傷害のほか原告ら主張の次の損害が生じたか。

<1> 入院関係費(入院六日) 六万二三四〇円

イ 看護のための交通費 一万八五四〇円

ロ 付添看護料 三万六〇〇〇円

ハ 入院雑費 七八〇〇円

<2> 逸失利益 一七六七万四四二二円

亡ミヨ子は、国民年金三四万二五〇〇円、遺族厚生年金一三五万三〇〇〇円 市議会議員共済の遺族年金三九万五二〇〇円を受給していた(一年間の支給総額二〇九万〇七〇〇円)。

亡ミヨ子は、本件事故に遭わなければ、一七・六〇年の余命があった。そこで、右支給総額から生活費三〇パーセントを控除したものに新ホフマン係数一二・〇七六九を乗じて、亡ミヨ子の逸失利益の現価を算定すると一七六七万四四二二円になる。

<3> 慰謝料 二〇〇〇万円

<4> 葬儀費用 二一六万八〇六七円

原告山口政雄が支出した。

<5> 確定遅延損害金 八五万三七九七円

原告らは、平成八年六月二七日までに被告農協から二二五四万〇六八二円(原告一人につき七五一万三五六〇円)の支払を受けたことにより、右金員に対する亡ミヨ子の死亡日である平成七年九月二五日から平成八年六月二七日まで民法所定年五分の割合による金員(二八万四五九九円)が遅延損害金として確定した。

<6> 弁護士費用 一七〇万円

原告山口政雄について七〇万円、その余の原告について各五〇万円

3  亡ミヨ子には加害車の動向に注意しなかった過失があったか。

第三争点に対する当裁判所の判断

一  争点1について

1  前記第二、二の事実、証拠(乙第六ないし第八号証、原告山口政雄、被告浜田(一部))及び弁論の全趣旨によれば、被告浜田は、後方を不注視の状態で加害車を後退させたため、亡ミヨ子の存在に気づかず加害車を亡ミヨ子に衝突させたことが認められる。

2  これに対し、被告浜田は、被告本人尋問において、加害車を亡ミヨ子に衝突させたことはない旨供述し、なるほど、乙第八号証(被告浜田の検察官調書)の三項には、被告浜田は加害車が亡ミヨ子に接触する前に亡ミヨ子が倒れかけているのを発見して急ブレーキをかけた旨記載されていることが認められる。

しかしながら、<1>被告浜田は、同じ乙第八号証の一項では、後方左右の安全確認不十分のまま後退したため、加害車の後方を横切ろうとした亡ミヨ子に気がつかず、加害車の後部を亡ミヨ子に衝突させて転倒させた旨供述していること、<2>また、事故の後間もなく行われた実況見分においても、加害車を亡ミヨ子に衝突させた旨指示説明していること(乙第二号証)、<3>さらに、事故当日の夕方四時ころ亡ミヨ子が入院していた病院において、原告山口政雄に対しても、信号に気を取られて後方を見ていなかったため、加害車を亡ミヨ子に衝突させた旨認めていたこと(原告山口政雄)、<4>亡ミヨ子は、生前、畑で農作業ができる状態であり、もちろん、炊事、洗濯などは一人ですることができ、足がふらついて倒れるような健康状態でなかったと窺われること(原告山口政雄)、<5>被告浜田は、本件事故に関する刑事事件において四〇万円の罰金刑を受けたこと(被告浜田)、以上の事実に照らし、被告浜田の前記弁解は信用することができず、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

二  争点2について

1  入院関係費 五万五七四〇円

証拠(甲第一四号証、乙第一〇、第一一号証、原告山口政雄)及び弁論の全趣旨によれば、亡ミヨ子は、本件事故後、直ちに本件事故現場近くの澤病院に入院したが、頭蓋内出血をしていることが判明し、同病院では手に負えないということで、呉市の中川病院に転送され、亡くなる日まで六日間入院したこと、大阪在住の原告小坂は、交通費一万八五四〇円をかけて中川病院に駆けつけ、右入院の間、亡ミヨ子に付添い看護をしたことが認められる。

そうすると、本件事故と相当因果関係のある入院関係費は、右付添看護のための交通費(一万八五四〇円)、付添看護料三万円(付添看護料は一日五〇〇〇円が相当である。)、入院雑費七二〇〇円(入院雑費は一日一二〇〇円が相当である。)合計五万五七四〇円であると認めるのが相当である。

2  逸失利益 一四一四万二三三一円

証拠(甲第二ないし第八号証、乙第四号証、原告山口政雄)及び弁論の全趣旨によれば、亡ミヨ子は、本件事故当時、単身で生活し国民年金三四万二五〇〇円、遺族厚生年金一三五万三〇〇〇円、市議会議員共済の遺族年金三九万五二〇〇円を受給していた(一年間の支給総額二〇九万〇七〇〇円)ことが認められる。

平成七年簡易生命表によれば、亡ミヨ子は、本件事故に遭わなければ、一七年の余命があった。

そこで、右支給総額から生活費四〇パーセントを控除したものにライプニッツ係数一一・二七四を乗じて、亡ミヨ子の逸失利益の現価を算定すると、一四一四万二三三一円になる(被告は、遺族年金の逸失利益性を争うが、不法行為制度は、加害行為がなかった場合に想定できる利益状態と当該加害行為によって現実に発生した不利益状態とを金銭的に評価して得られる差額を損害として把握してこれを賠償させるものであるから、亡ミヨ子が死亡によって遺族年金の受給権を喪失したことが事実である以上、遺族年金の逸失利益性は肯定される。また、遺族年金の目的・機能が遺族に対する損失補償ないし生活保障にあることに照らしても、遺族年金の逸失利益性は肯定されるというべきである。)。

3  慰謝料 一八〇〇万円

本件事故の態様、亡ミヨ子の入院期間、原告らは亡ミヨ子の子供であること、亡ミヨ子の年齢等を考慮すると、亡ミヨ子の慰謝料は九〇〇万円、原告ら各自の慰謝料は三〇〇万円が相当である。

4  葬儀費用 一二〇万円

本件事故と相当因果関係のある葬儀費用は一二〇万円が相当であり、証拠(甲第一四ないし第二六号証、原告山口政雄)及び弁論の全趣旨によれば、葬儀費用は原告山口政雄が支出したことが認められる。

5  確定遅延損害金 八四万〇九五一円

原告らは、平成八年六月二七日までに被告農協(自動車損害賠償責任共済)から填補を受けた二二五四万〇六八二円(原告一人につき七五一万三五六〇円)につき、亡ミヨ子の死亡日である平成七年九月二五日から平成八年六月二七日まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を請求しているので検討するに、原告らは、右填補額を超える損害賠償請求権を取得したことは以上に見たとおりであるから、右填補額について亡ミヨ子の死亡日である平成七年九月二五日から平成八年六月二七日まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を請求できる。

ただし、原告らは、右填補額のうち、入院治療費五一万九四八二円については平成七年一二月二九日に填補を受けているから、各自の確定遅延損害金は次の<1>ないし<3>の合計(二八万〇三一七円)になる。

<1> 七五一万三五六〇×九六÷三六五×〇・〇五=九万八八〇八

<2> (七五一万三五六〇-(五一万九四八二÷三))×二÷三六五×〇・〇五=二〇一一

<3> (七五一万三五六〇-(五一万九四八二÷三))×一七九÷三六六×〇・〇五=一七万九四九八

6  弁護士費用 一一七万円

本件訴訟の態様、認容額等を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、原告山口政雄については四七万円、原告山口憲司、原告小坂裕子については各三五万円と認定するのが相当である。

三  争点3について

被告らは、亡ミヨ子には加害車の動向に注意しなかった過失があった旨主張し、これに沿う証拠(乙第八号証、被告浜田)が存在するが前記一の認定事実に照らし、右証拠は採用することができず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

四  まとめ

1  被告浜田は、民法七〇九条に基づき、原告山口政雄に対し五一七万三〇〇七円及び内金四八九万二六九〇円に対する平成八年六月二八日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金、原告山口憲司及び原告小坂裕子に対し各三八五万三〇〇七円及び内金三五七万二六九〇円に対する平成八年六月二八日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払う義務がある(原告山口憲司及び原告小坂裕子に認められる右金員は、前記二、1、2、3、5の合計三三〇三万九〇二二円から既払分二二五三万円を控除したものを三分し(三五〇万三〇〇七円)、これに同二6を加算したものであり、原告山口政雄に認められる右金員は、右三五〇万三〇〇七円に同二4、6を加算したものである。)。

2  被告農協は、この判決が確定したときは、自動車損害賠償責任共済及び自動車共済契約に基づき、原告山口政雄に対し五一七万三〇〇七円及び内金四八九万二六九〇円に対する平成八年六月二八日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金、原告山口憲司及び原告小坂裕子に対し各三八五万三〇〇七円及び内金三五七万二六九〇円に対する平成八年六月二八日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払う義務がある(ただし、原告らは、右各請求金額のうち各二四九万円(自動車損害賠償責任共済の死亡部分の限度額三〇〇〇万円から填補額二二五三万円を控除したものを三で除したもの)を超える部分については、自動車損害賠償責任共済に請求することはできず、自動車共済契約に請求することができるにすぎない。)。

3  原告らの被告らに対するその余の請求は理由がない。

第四結論

よって、原告らの請求は主文一項、二項の限度で理由があるのでこれを認容し、その余を棄却することとし、主文のとおり判決する(仮執行宣言は相当でないので付さないこととする。)。

(裁判官 武田正彦)

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